集中力について

集中力について思ったことがある 以前読んだ刀鍛冶師の事

 まあ、これから刀鍛冶になりたいというなら、第一に、好きでなきや駄目だな。刀は、好きてなきやね、それから、いいかげんなものやるんだったら、やらねえ方がいいな。できる、できないは別でね。それはね、とことんまでいいものを作るという根性をしっかり持つんでなきゃ、やらねえ方がいいと思うね。まあ、なにしろこういう時代でしょう。テレビはあるは、遊ぶことが専門のような時代だね。でもね、そういうものに敗けたら絶対にだめです。自分の欲望ってのは、ある程度、捨てなきゃ。だから、もう刀作ることが自分の楽しみだと、こういう調子にならなきゃ、この仕事は出来っこないです。ええ、映画は観るは、タバコは喫うは、酒も飲むは、その間に刀を作るはっていうんじゃ、出来っこないですよ。私自身ね、人と同じ生活したり、同じことやったんじゃ、人と同じ仕事しか出来ねえと思ってね。やっぱり、第一に人の心をうつものを作るには、中くらいの、生半可な根性じゃ、出来っこないんですよ。 これはね、身体を使う仕事ですよ。それはひどい重労働です。ただね、そのう、ここらで土を据ったり、土方っていうか、ただ身体を動かしてりゃすむ問題じゃない。細心の注意をしなきやならん仕事ですから、大変な仕事ですよ。だから、まず、刀が好きで、好きでね、鉄をいじることが好きでなきや駄目です。
 へたなことをしていると怪我をするんです。先手の鎚がぶつかったり、火傷などというのは手先き全部、火花でやっちまう。栗原先生のところにいたころ、一度、化膿してひどい目にあったことかあるんですよ。それで、お使いに行って、都電なんか乗ってるとみんなよけるんです。なんか、かさかきじゃないかなんて、思ったんでしょうね。一ヵ月ぐら
いで泊りましたがね。いまじゃ、もう火傷をしても、風呂に入って一寸痛くなって、気がつくようなもので、何時したかなど気がつきゃしない。